御蔵島桑 六角厨子
W280mm×H368mm
撮影(C)田中俊司
 
 
 
 木工芸、中でも東京を基盤とする指物は、この御蔵島
産の桑があって始めて近代的美術工芸として地歩を固め
ることが出来た。一幅の絵画を思わせる杢目、品のある
光沢、複雑な仕事に耐える緻密な材質、どれをとっても
銘木中の銘木である。
 明治の中頃この材を縦横に駆使して作家としての地位
を確立したのが、祖父の師、前田桑明である。それ以降
特に桑による厨子が作家の力量を示すシンボル的テーマ
となり、祖父も父も己の様式の完成に心血を注いだ。
 しかし良材も、理解ある愛好家も少ない現在、常に希
いながらも制作の機会は多くはないが、今回幸いにも好
意ある方に恵まれ、思う存分仕事をさせて頂く機会を得
た。桑物師の系譜に連なるものとしてこれ以上の喜びは
ない。ましてやこの御蔵島桑は最晩年の父が近年にない
良材として、病身をおして製材の指揮をした思い出深い
材である。
 安置される新羅金銅佛の六角の台座に倣い、扁平六角
という類例のない形となった。金銷擬宝珠や銀金具類も
含め全て自作になり、相当の時間を費やしてしまったが、
実際の制作時間より、新しい形の厨子を纏め上げる為の
葛藤に徒に時ばかりを過ごしてしまった。それをお待ち
下さったN先生にはただただ感謝の一言あるのみである。

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